大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

広島高等裁判所松江支部 昭和47年(ネ)12号 判決 1973年3月16日

控訴人 別所勲

右訴訟代理人弁護士 直野喜光

被控訴人 大原光生

右訴訟代理人弁護士 柴義和

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の主張ならびに証拠関係は、次に附加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これをここに引用する。

被控訴代理人は「仮りに控訴人の理事選任手続が適法でなく、理事就任の登記が不実であるとしても、控訴人は理事就任を承諾しているのであるから、商法二六六条の三と同趣旨の農業協同組合法三一条の二第三項に商法一四条が類推適用されるべきであり、従って控訴人は理事就任の登記が不実であることをもって善意の第三者である被控訴人に対抗することができず、理事としての責任を免れないものである。」と陳述した。

控訴代理人は「控訴人は理事就任を承諾したことがなく、また理事就任という不実の登記の出現に加功したこともないから、右不実の登記があるからといって理事としての責任を負うべきものではない。」と陳述した。

証拠≪省略≫

理由

≪証拠省略≫によれば、訴外大山茶園生産農業協同組合(以下訴外組合という)は、組合員が協同して茶業の生産能率を挙げ、その経済状態を改善することを目的とし、組合員に対する資金の貸付、物資の供給、共同施設の設置等の事業を行なうため、昭和四一年五月二三日設立され、昭四四年四月二四日行政庁の解散命令により解散し、同年同月二八日解散登記をしたものであり、控訴人および訴外別所哲、同松原道太郎、同入江博愛、同岡野三郎はいずれも訴外組合の設立当時から理事として登記されていたものであることが認められる。

次に、≪証拠省略≫によれば、訴外組合は、理事別所哲が組合長としてその経営を専断していたものであるところ、殆んど実質的な事業を行なわず、手形を濫発して多額の債務を負い、結局行政庁の解散命令を受けるに至ったものであるが、右別所哲は昭和四四年三月一二日当時訴外組合には支払能力がなかったのに同組合の振出名義をもって金額一五〇万円、満期昭和四四年五月二五日、受取人訴外興喜興発株式会社(以下訴外会社という)なる約束手形一通を振り出し、訴外会社の代表取締役薬師寺利明は被控訴人に依頼し、右手形と引き換えに同年三月二〇日一五〇万円を借り受け(その弁済期は右手形の満期と同日であると推認される)、その後右手形は満期の翌日に支払場所に呈示されたが、支払を拒絶され、現に被控訴人が右手形を所持していることが認められる。≪証拠判断省略≫

ところで、右のごとく訴外組合の経営が理事の一人である別所哲の専断に委ねられ、同理事が組合の資力を無視して手形を濫発し、その結果善意の第三者が害された場合、同理事はもとより、その専断を放任した他の理事も農業協同組合法三一条の二第三項により損害賠償の責任を負わなければならないものである。もっとも≪証拠省略≫によれば、訴外組合の理事の選任に当っては、創立総会において組合員の選挙により選出するという法定の手続がとられず、単に別所哲が控訴人ら理事候補者に個別に理事就任の承諾を求めたに過ぎないことが認められるので、法律上有効な選任手続がなされたとは認め難いところである。しかし、≪証拠省略≫により、控訴人が別所哲に対し理事就任の承諾を与え、これにもとづいて登記がなされたことが認められる以上(≪証拠判断省略≫)、控訴人は農業協同組合法三一条の二第三項と同趣旨の商法二六六条の三第一項に関して類推適用される同法一四条の趣旨に従い、善意の第三者に対して理事就任登記の不実を対抗することができない結果、訴外組合の理事としての責任を負うべきものと解するのが相当である。したがって、前認定のように別所哲が理事として手形を濫発して多額の債務を負うべき行為をしているのを放置した控訴人は職務上重大な過失があったものとして第三者に与えた損害を賠償すべきものである。また≪証拠省略≫によれば、控訴人において昭和四二年頃別所哲に対し理事辞任の申出をなしたことが認められるが、右各証拠によるも辞任の登記はなされなかったことが明らかであるから、農業協同組合法二条に照らしてみても控訴人は前記の責任を免れないといわなければならない。

そうすると、被控訴人は前記手形を信頼して訴外会社に対し一五〇万円を貸付けたことにより同額の損害を受けたものであるから、控訴人に対して右一五〇万円ならびにこれに対する貸金の弁済期と推認される前示約束手形の満期の翌日たる昭和四四年五月二六日から完済に至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める本訴請求はこれを認容すべきものであり、これと同趣旨の原判決は相当であって本件控訴は理由がない。よって本件控訴を棄却し、控訴費用の負担につき民訴法九五条八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 熊佐義里 裁判官 後藤文彦 小川英明)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例